LBJのMJ 2019.03.14

15才の時に彼は初めて、生身の神様に会ったんだという。

その人はそれまで、ポスターやテレビの向こうの存在だった。運が良ければバスケカードで出てくることもあって、そんな時は熱狂した。
仲間たちとは毎日毎日その人の話ばかり。みんなでCMソングを口ずさんだ帰り道。"I wanna be〜, I wanna be like Mike〜"  
生身のその人が地続きの世界で生きているなんて想像に浮かばないくらい、イデアのように。いつも遠くから見ていた。
圧倒的な光。純粋な憧れ。カミサマ。

その日与えられたはじめの4本のフリースローをことごとく外して、元々トッププレーヤーにしてはひどいFT%が今年は更にひどいんだけど、それにしたってなんなの……と見ていて苦笑いした。
記録まであと14ptで始まった試合で、わざと記録達成を遅らせているの? って冗談交じりで思うくらい。
でも14点じゃあよっぽどのことでもなきゃ記録を達成してしまうことは目に見えていた。メディアもファンも今日だなって確信していた。いっそ当然すぎて、太陽が予想時刻に東から昇るのを見る気分で。
まさか、本人には全然ちがうんだって、そのときはわかってなかった。

生涯得点史上5位だった彼が、4位だったその人の記録を捉え、追い越したその日。
今季は既に6位のノビツキーを超えて5位のチェンバレンを超えていて、その時々に求められるインタビューでは先達へのリスペクトと感慨を真面目に語っていたけれど、ごく淡々としたものに見えていた。だからその日も、彼が彼であれば当然たどることになる道筋でしかないと油断していたのに、記録達成後のタイムアウトのベンチで、彼は深く深く俯いてタオルで完全に顔を覆って汗を拭うふりをしていた。
いや、もちろん汗も拭ってはいたんだけど、それだけじゃないのがわかった。吃驚した。
そうなのか。今日、泣くのか。

史上最高の選手だと讃えられ、本人にだって自覚も自信もあるだろうに、でも信じられないクレイジーなことだと試合後のインタビューで彼は話した。
こんなところに今いる自分を、子どもだった自分の目で呆然と眺めているようだった。
マイケル・ジョーダンに感謝している、という。多分ジョーダン本人にも想像できないほど感謝しているのだと言う。

彼はその日、あの日々の神様に再会したのかな?
今はきっと、あなたが誰かのカミサマになっているんだよ。