象で蛇を呑む

蓮の季節である。

子どもの頃、小説に出てきて以来、一度は試してみたいと思っていた象鼻杯を体験できるというので、ハス祭りのイベントに出掛けてみた。

なお、象鼻杯というのは、蓮の葉っぱの上から酒を注ぎ、長い茎の管を通して酒を飲むというもの。長い茎を象の鼻に見立てた杯というわけである。蓮の清廉な香りと相まって、お酒も旨くなる…というのが建前だがさて?

経験から醸造アルコール入りの酒を飲むと頭痛がするため、前日に純米酒を購入しに行った。せっかく飲むなら美味しい酒の方がいいし。

百貨店にて、出張販売に来ていた島根の兄さんに薦められて彼のところの「ヤマタのオロチ」というお酒を買う。

象で蛇を呑むというわけだね、と悦に入ってみたものの、どういう具合で飲ませて貰えるのか予想がつかないので、持参した酒が飲めるかはこの時点では謎。

昔読んだ本では、一人が寝転がって、もう一人が蓮の葉っぱを支えて酒を注いでいたものだが…?

会場にて見ると、客はパイプ椅子に腰かけて茎をくわえ、揃いの法被を着たオバチャンたちが向かいの椅子の上に立って葉っぱを支えて紙コップに移した酒を注いでいた。横に4脚並んでいて、椅子の背に赤ワイン・日本酒・日本酒・ジュースと貼り紙。選べるらしい。日本酒と思い込んでいたけど、そうか別になんでもいけるか。どおりで子ども連れも結構並んでいる。

イベントの始めを見ていると、蓮の葉っぱは背が高いので、最初のうちは葉っぱがテントの屋根につっかえて縦方向にかつかつ、それが横方向に4つ並んでぎゅうぎゅう、なんとも窮屈な光景であった。まあ、人のくわえたあとを10センチほどカットして次に使い回していくので、葉っぱは徐々に低くなっていくのだが、ちゃんと屋根のある広場で開催しているのだから、別にテントなしでも良かったと思うんだけど。どうせならもっと伸びやかな雰囲気を作って貰いたい。

一人1本とは言わないまでも、少しは自由があるかと思っていた期待はまったく裏切られ、客はただ茎の下端をくわえて飲み物をすすれるだけなのだった。口にくわえる他は葉っぱに触るチャンスもなく、流れ作業で自分の番が回ってきたら、「はい、吸って!」「もっとしっかりー!」「はいはい、もう少し!もうちょっとよー!」と平均1.5人ほどの介添えのオバチャンたちに上からやいやい言われるので、「はいッもっとイキんでー!」「ほら頭が見えてきたわよ、もうちょっとー」みたいな、出産風景が頭をよぎった。いや、そんな気楽なものと一緒にすんなと、妊婦さんには怒られるかもしれないけどさ…

とにかく、情緒もへったくれもなく流れ作業。後がつかえているから気も急くし、味もよくわからないようなありさまで、正直がっかりだった。

それでも一応持ち込みの酒はなんとかねじ込んで、飲ませて貰う。いや、奥に冷やしているのが見えたのがよく見る感じの赤い紙パックの醸造酒だったから、頑張った。

それにしても、一人あたりの分量は小さな紙コップに1フィンガーってところで、本当に、堪能するに程遠い感じ。本当に、ただ象鼻杯体験、という感じでつまらない。体験っていうのももっと全体の雰囲気とかをひっくるめてであって欲しい!! 中国の王朝貴族の優雅な楽しみでしょー? あんなあくせくじゃあ台無しだあ!

もうちょっと費用がかかってもいいから、典雅に楽しませて欲しいな。

ところで私の前に並んでいたお嬢ちゃんは日本酒のとこに座って飲んでいたけど、あれ親とか会場の人とか誰か止めなくていいのか?